300B A2級シングルアンプ 



 2009年に作成した 300Bシングルは、真空管アンプの初設計ということもあり、そんなに悪くもなかったのですが幾つか気になるところもあり、全部解体して一から作り直しました。どうも最近は真空管アンプの制作意欲が湧かず解体から2年以上ほったらかしていましたが、「これを作って一区切り」と自分に言い聞かせて頑張りました(仕事でもないのになんで頑張るんだと... 悲しい性です)。更には制作の途中で、急遽の部品変更、回路の基本的な設計ミス(!!)、そのための回路変更と付属回路の追加等々、紆余曲折と難題が次々と起こり完成までに随分と消耗しました。


旧バージョンのシャーシ (MK-400)新バージョンのシャーシ (SRDSL-10S)

旧バージョンの問題点

 旧バージョンの回路的な問題点は、大体次の3つでした。

1、初段の6922を1ユニットずつ両チャンネルで共有。
2、300BのB電源を両チャンネルで共有。
3、OPT(RW-20)の負荷インピーダンスが、2.7KΩ(2次が6Ω時)と300Bには小さ過ぎ。

1、2についてはクロス・トークの悪化、3については歪みの増加が懸念されます。ですが私としては、それよりも何よりも外観が気に入りませんでした。このアンプは初めて自前でシャーシ加工を行ったこともあり、加工が容易で傷も目立たないLeadのMK-400を採用しました。作った当初はカバーもついていて中々に良いと思っていたのですが、今眺めてみると何となく野暮ったくて、如何にも素人の自作品という風体です。また真空管のシルエットも隠れていて、折角特注したエンブレムもちっとも映えません。そこで高級感のあるタカチのSRDSL-10Sのシャーシで、最初からスマートに組み直すことにしました。


300Bロードライン

負荷インピーダンスとカソードフォロア

 RW-20は、2次側が6Ω固定で1次側が2.7KΩと5KΩを選択できるようになっています。そこで今回は5KΩを使うことにしました。これで歪みの低下が期待されます。ただしこれは、300Bの標準的な負荷インピーダンス3.5KΩよりもちょっと大きめの値です。この程度の違いならまだ良いのですが、自宅のスピーカーシステムは6Ω(メイン)と8Ω(サブ)です。8Ωのスピーカーを繋いだ時には、300Bの負荷インピーダンスは6.7KΩなってしまい、このままでは最大出力が大幅に低下してしまいます。これを避けるためにはB電圧を高くする、A2級で動作させるという2つの解決策があります。今回の電源トランス(PMC-264SH)では、今のB電圧が限界なのでA2級動作を採用し、300Bの前段部に直結カソードフォロア段を挿入しました。というか、実際にはそんなA2級領域まで引っ張ることはほとんどないので、むしろ高出力時も含めた全てのA1級領域で良好に動作させようというのが実質的な狙いです。



真空管の構成

 旧バージョンは、6922(片ch)- 12BH7A(パラ)- 300Bの構成でした。しかし初段の6922(6DJ8)は、低歪みで高音の伸びも良いのですが、低音の迫力が今一つでした。そこで初段は、お気に入りの6N3P-EのSRPPとしました。また次段の12BH7Aも、300Bのドライバーとしては定評がありますが、300Bとの歪みの打ち消しを狙うにしても2次歪みが少し大きすぎます。特に今回は300Bを高負荷(5KΩ)で使う予定なので、300Bでの歪みが更に減ることが予想されます。そこでドライバー段には、直進性の良い6SN7の片ユニットを用い、300Bを余裕でドライブできるように、またドライバー段での歪みも減るように大きめの負荷抵抗を採用しました。この場合6SN7の出力インピーダンスが多少上がってしまいますが、次がカソードフオロア段なのでまったく問題ありません。またシルエット的にも、大きな300Bに対して前段部がチマチマしたMT管だけよりもGT 管が加わってバランスが良くなりました。カソードフオロア段には、6SN7のもう片ユニットを用いました。この段の主目的は、300Bがグリッド電流や入力インピーダンス低下等でへたれないようにすることなので、Ipはせいぜい10mAとしました。整流管には、直熱管の5U4GBを使っていましたが、先日上位互換の5DJ4を入手したのでこちらを使いました。真空管のシルエットも5U4GBよりも一回り大きくなっています。

ということで、最終的な構成です; 6N3P-E(SRPP)- 6SN7(片ch)- 6SN7(片ch / カソードフォロア)- 300B


ソフトン RW-20ISO XE-20S(写真を取り忘れたので箱だけ)

出力トランスをXE-20Sに変更

 そんなこんなでシャーシ加工も終わり、さて部品を取り付けて配線を行おう思っていた矢先、ISO廃業のニュースを耳にしました。実際の廃業は3ヶ月先とのことでしたが、すぐにトランスが入手困難になると判断し、翌日にWEBでXE-20Sを注文しました。品物はすぐに入手でき、この判断は大正解でした。そして折角なので、このXE-20SをRW-20の代わりに使うことにしました。本当はもう1ランク大きなOPTがほしかったのですが、シャーシ加工も済んだ後だったので、やむを得ずRW-20と同サイズのXE-20にしました。

 しかしXE-20Sの仕様は、2.5, 3.5 5KΩ:4, 8, 16Ωで、RW-20とはインピーダンスの変換率が異なります。今回は5KΩ: 8Ωを採用しました。この場合、2次側が6 , 8Ωの負荷で1次側はそれぞれ3.75 , 5KΩとなり、RW-20の時よりも300Bの負荷インピーダンスが小さくなります。その意味では、カソードフォロア段は必ずしも必要なかったかもしれません。実は当初カソードフォロア段を追加した理由が、もう一つありました。RW-20はリング・コアのためコアが磁化されにくく、そのためスッキリした品の良い音が出ます(私の独断)。こういう音は個人的には好きなのですが、やはり300Bには馬力のある音を出してほしいと考え、カソードフォロアで音域を広域化し特に低音域を少し強調しようと考えました。しかしXE-20Sでは、ちょっとやり過ぎになるかもしれないと...(実はこれが後でトラブルの原因となりました。)


カソードフォロア回路

カソードフォロア回路でとんでもない勘違い!!

 みっともないので書くのを止めようかとも思ったんですが、話しの成り行き上必要なので恥を忍んで...

 上図のAは、典型的なカソードフォロア回路です。300BはA1動作でも±75V程度の振り幅の入力が必要なので、出力起点を0Vとするとこの程度の印加電圧は必要です。BはAに定電流回路を直列に挿入したもので、より効率的な動作が期待できます。ただし定電流回路の耐圧には注意が必要です。Cは、VT-25シングルでも用いたカソードチョークです。この回路の利点は、大掛かりな負電圧が必要ないことと、動作起点の電位が容易に設定できる点でしょう。今回の当初の計画では、BかCにしようと思っていました。しかしBについては、電源トランス(PMC-264M)の関係でA.C.360Vを負電源に利用するしかなく、これではB電源をもう一つ作るようなものです。またCについては、シャーシを小さめにしたこともありチョークコイル2個を入れるスペースが全くありませんでした。

 そこでバカな私は考えました。カソードチョークでは、電力系のD.C.電流のみを流し、信号系のA.C.電流は高抵抗で遮断してしまう。それならば定電流回路の方がもっと効果的に遮断できるだろうとDの回路を考え(大バカです!!)、この回路で最後まで組上げました。そして完成し音を出したところ、僅か0.1W位で歪んでしまいました...  チョークコイルはA.C.電流を遮断している訳ではなく、高抵抗に見合った電圧を逆起電力で作り出しているんですね。最後になって初めて気が付きましたが、時既に遅し...

 この場合一番簡単で変更の少ない回路修正は、Cのカソードチョーク回路を採用することです。しかしもはやチョークコイルを入れるスペースは全くありません! 結局部品の一部を他の場所に追いやって、何とかチョークコイルのスペースを作り、無理矢理実装しました。しかしこれが次の問題を引き起こすことになりました...


増幅回路
電源回路

回路構成

 いろいろな紆余曲折があって、最終的な回路は上図のようになりました。初段は6N3P-EのSRPPです。6N3P-Eは低圧でも問題なく動作しますが、Epは少しでも高く取れるように微調整しました。2段目は6SN7の片ユニットを用い、高めのB電圧(435V)と大きめの負荷抵抗(56KΩ)でEp=170V , Ip=3mAに設定しました。この段では300Bをドライブするための±100V前後の出力が必要ですが、6SN7は今回のように比較的低いEpでも問題なく動作します。ドライバー段は、後段の300Bと直結したカソードチョークによるカソードフォロアです。この動作条件は、以前作成したVT-25シングルとほぼ同じです。ただ負電圧を可変にして、300Bのグリッド電位を微調整できるようにしました。出力段の300Bは、1KΩのメタルクラッドを用いた自己バイアスとし、動作条件はEp=355V, Ip=72mA, Eg=-73Vとしました。カソードフォロア直結では仮に固定バイアスにしても偶発的な事故は起こり難いのですが、後日高価なヴィンテージ管に差し替える可能性も考えて、少しでも安全な自己バイアスとしました。またグリッド電位を多少マイナスにして、Ipもやや押さえ気味にしました。これは重畳電流を減らして、コアが比較的小さなXE-20Sの磁化を少しでも緩和しようという配慮です。電源回路では、特記事項はありません。しいて言えば、B電源の電圧降下を少しでも避けるため平滑チョークを2つ使っています。まあ、整流管を出力電圧の高い傍熱管にすればこんなことも気にしなくて良いのですが、5DJ4の最大定格300mAは余裕があって頼もしく、安心して使用できます。

 ループNFBでは、微分型位相補正用のコンデンサーを省略しています。実はほんの僅かながらリギングが出ていたので、軽く位相補正を入れたかったところです。しかしそうすると、解放負荷で超低域( ~5Hz)が発振気味になってしまいます。ただこれは、解放負荷の時だけの現象だったのでそう神経質になる必要はなかったかもしれません。しかしあまり気持ちの良いものでもないので、位相補正は止めておきました。実際、位相補正なしでも高域の安定性は全く問題なく、試聴上も音質の違いは解りませんでした。この超低域での発振の原因ですが、最初は電源系のモーター・ボーディングかとも思ったのですが、どうもスタガー比の問題のようです。普通のトランスならば超低域は完全に減衰しているので気にすることもないのですが、XE-20Sのような高性能なトランスでは超低域もきちんと考えなければならないことが解りました。


ディレイ回路

ディレイタイマーの追加

 カソードチョークのために急遽実装した2個のチョークコイルは、入れる場所がなくて電源トランスと平滑チョークコイルの真下に配置しました。カソードフォロアは出力信号のインピーダンスが低いので、多少冗長で変な配線をしてもノイズを拾ったり音質が劣化したりはしません。しかしそれは、カソードフォロア段が動作している場合の話です。6SN7が動作し始めるまでの数10秒間は、チョークコイルにはD.C.電流が全く流れず、そのため電源トランスや平滑チョークコイルからのフラックスの影響をモロに受けてしまいます。実際、電源投入直後の20秒位の間「ブオオーン」というハムがスピーカーから出てしまいます。これは特にスピーカーを痛める程の音でもないし、6SN7の動作後は消えるので問題はないのですが、如何にも安っぽい感じがします。そこで電源投入直後の30秒位の間、300Bの入力をアースして置くことにしました。ここはタイマーリレーの出番ですが、これも入れる場所すら全くありません。そこで555のICチップを使って自前で25秒程度の小型ディレイタイマーを作りました。この回路自身は標準的な定番の回路で特記することは何もありませんが、制作費は総額でも高々500円程度でした。それに比べて真空管アンプの部品はやたら高価で、何だかなあと...



最大出力、利得、残留ノイズ、NFB、DF

 完成したアンプの最大出力は8.6Wとなり、明かにA2級領域まで動作していることが解ります。A1動作では、6W弱しか得られない筈です。裸利得は44倍とやや大きめですが、CDプレーヤー直結にはちょうど良い位です。電源投入時のカソードチョークからのハム音が問題になりましたが、正常動作時には残留ノイズも0.4mV(Non-NFB)と全く問題がありませんでした。NFBは、3.2~7.2dbの4段階のループNFBを掛けました。DFについては、300Bに5KΩ負荷を使ったこともあり、Non-NFBでも3.7、最大NFBでは7.0と充分な値が得られました。


周波数特性歪率

*訂正* 以前載せていた歪率のグラフにエラーがありました。原因はWave Spectraで使っていたサウンドカードのドライバーのようで、どうも最新のOSと相性が悪かったようです。ドライバーを旧バージョンにダウングレードして、なんとか正常回復させました。(2014.11.23)

周波数特性、歪率

 周波数特性は、図からもわかるようにシングルアンプとしてはかなり広帯域で、当初狙ったとおりの特性となりました。というかこの特性図、以前に作成した2A3(その2)と良く似ています。このアンプでも出力トランスにはXE-20Sを用いています。どうもこれはXE-20Sの特性のようで、低域が特にNFBを掛けると良く伸び、その反面高域が僅かにダラ下がり気味になる傾向のようです。ですが全般的にみて非常に良い周波数特性です。

 歪率もかなり良く、1KHzではNon-NFBでも6Wまで1%以下の歪率です。100Hz, 10KHzでの値もまずまず良好です。

Electro-Harmonix 300B goldFull-Music 300B

試聴

 試聴の第一印象は、音域とダイナミックレンジが広く、シングルというよりプッシュプルのように力強い音でした。ちょうどこれは以前作成したEl34 3結PPに良く似た音で、オーケストラの演奏も安定感のある低音に支えられてしっかり表現します。しかし音量とNFBを落として弦楽曲やピアノ曲を聴いてみると、今度は2A3(その1)のような直熱三極管らしい艶のある音になります。これはオールマイティで良いですね。もし「今まで制作した真空管アンプから一台」と言われたら、迷わずこのアンプにします。改修前のアンプも悪くはなかったのですが、ちょっと格が違う感じです。完成までには随分苦労しましたが、結果的には満足できる出来映えとなりました。

 一番最初の写真に映っている茄子型の300Bは、Full-Musicの300Bです。これはシルエットに惹かれて購入したのですが、正直私の好みの音ではありませんでした。現在常用しているのは、以前から使っていたElectro-Harmonixの300Bです。 Full-MusicはElectro-Harmonixに比べると、高音は多少伸びるのですが、やや線が細く乾いたような音になります。低音に関しては、明かにElectro-Harmonixの方が勝っています。因みに周波数特性と歪み率のグラフは、Electro-Harmonixで測定したものです。Full-Musicでは、低音域の周波数特性がやや悪くなり、歪み率も全般的に2〜3程度大きくなります。



追記

 どうもこのアンプ、音はそのものは非常に良いのですが、妙に聴き疲れする点がだんだん気になってきました。そこで積分型位相補正を追加することにしました。



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