EL34 3結シングルアンプ (2014バージョン) |
アンプ作りは前回の 300B A2級シングルアンプで打ち止めにしようと思っていましたが、位相補正のことをいろいろ検討しているうちに、また良からぬ虫が疼いてきました。今回は前回の教訓を生かして、なるべくお金をかけないシンプルなシングルアンプをというポリシーで作ってみました。
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PMF-7WS | 周波数特性他 |
PMF-7WS |
今回は出力トランスとして、ノグチトランスのPMF-7WSを使いました。このトランスは、ノグチトランスの他の出力トランスとは少し性格が異なります。まず素材がオリエントコアで、同価格帯のハイライトコアとは一線を画します。また他のノグチトランス製の出力トランスは、一般的に帯域が広く、特に高域が良く伸びる反面、周波数特性にやや暴れが見られるという傾向があります(私の独断)。しかしこのPMF-7WSは、まったく逆の特徴を持ち、図からも帯域は広くないけれど周波数特性、位相特性共に穏やかに振る舞うことが解ります。これはどちらかと言うと、ノグチトランスと言うより春日無線の出力トランスの特性に似ています。一説では、PMF-7WSは往年の某社製の名トランスのコピーという話もあるようですが、そう言われると確かにこれは一昔前のスペックのようにも思えます。こういうトランスは結構好きなのですが、もし噂通り古い設計だっとするならば重畳電流等も抑えて無理をせずに使うような配慮が必要かもしれません。 |
増幅回路 | 電源回路 |
回路の概要 |
メーカーのハンドブックでは、EL34の3結時の推奨動作条件としてEp=375V, Ip=70mAという300B並みの値が公表されています。しかしこの動作条件はあまりにも大げさすぎるし、安価で標準的なアンプという今回の目的にも相応しくありません。またこんなにIpを流したのでは、PMF-7WSの磁気飽和も心配です。
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回路定数等 |
12AU7は動作設定の自由度がかなり高く、低電圧、低電流でも問題なく動作します。しかしあまりに低いEpでは、なんとなく覇気のない弱々しい音になってしまうような気がします。やはり本来の性能を出すためには、最低でもEp=100V, Ip=2mA程度は必要ではないかと思います。今回の前段部は直結ではないので、動作条件は割合自由に選べます。そこで初段についてはEp=100V, Ip=2mA、2段目については、Ep=170V, Ip=3mAを動作起点の目安に考えました。
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シャーシ加工の設計図 | 加工後のシャーシ、底板、落とし込み用サブシャーシ |
シャーシ加工 |
加工したシャーシの写真も載せておきます。何を隠そう、私はアンプ作りの中でシャーシ加工が一番好きです。反対に一番嫌いなのは配線作業です。作業そのものは得意ですが、なにせまったく創造的な要素がなくて退屈そのものです(私には)!
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EL34 Ep-Ipロードライン(3結) | 特性表 |
特性 |
私の住んでいる地域の電力は60Hzです。そのため電源トランスの出力電圧がやや高くなり、実装した回路電圧も全般的にやや高めとなり、電源系のデカップリング抵抗は全て再調整しました。最終的に完成したアンプの特性は、最大出力3.4W 、裸利得19倍、残留ノイズ0.35mVとなり、ほぼ当初の予定通りのものとなりました。ダンピングファクター(DF)も、多少ともNFBを掛けると4.0以上の値が得られ、真空管アンプとしてはまずまずの値となりました。周波数特性は、出力トランスの性能がそのまま出たような素直な特性となり、NFBを掛けた時には十分な広帯域特性となっています。歪率は、設計時の予想通り少し高めの値です。その大きさは、通常使用する状態(1W弱+NFB)でちょうど1%位です。ただしこの主な成分は、倍音に対応した2次高調波なので、音楽を聴く時に耳障りになるような歪ではありません。 |
周波数特性 | 歪率 |
試聴と評価 |
試聴した印象を一言で言うと、「普通」の音のするアンプです。これは決して否定的な意味で言っている訳ではありません。一般的に小出力のシングルアンプは、大規模なアンプよりも、例えば「元気が良くて力強い」とか「繊細で綺麗」とかいうように、それぞれの個性が出やすいように思います。これは良く言えば個々のアンプの個性ですが、あからさまに言えば欠点を良い方向へ勘違いしただけだと思います。しかし今回のアンプは、そんな感じはありません。例えて言うなら、300Bシングルの全ての部分を全体的にどこも1ランク落としたような感じです。それもこの文章を書くために神経を集中して比較することで初めて解る程度の違いです。全体的には、落ち着きと余裕が感じられる音で、もう少し大きなアンプの音のように感じられます。少なくとも以前のバージョンとは全く違う音です。
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