EL34 3結シングルアンプ 



 前作のPCL86(PP)は、音も特性も良いけれど全てが整い過ぎていて今一つ味気ない感じでした。この理由は高次歪、特に適度な2次高調波歪がPP動作によって消えてしまったことが主な原因ではないか思います。

 そこで今度は、ある程度2次高調波が乗ったシングルアンプを作ることにしました。選んだ出力管は、EL34です。この真空管は、3結にすると割合に左右非対称なロードラインが得られそうです。

 ところで自分のシステムでは、CDプレーヤーを直結しています。そうすると、0.5V前後の入力で最大出力が得られるようなスペックが欲しくなります。EL34の動作起点はおおよそでEg=-25V、従って実効値で±18V前後を±0.5Vの入力で振り切る必要があります。ループ帰還を6db程度かけるとすると、前段で必要な利得は18/0.5/0.5=72倍程度になります。自分は5極管が好きではないので、低μ管の12AU7Aの直結2段でこの72倍を稼ぐことにしました。しかしそうすると、今度は利得がちょっと大きくなり過ぎます。そこで2段目のプレートから1段目のカソードへ局所P-K帰還をかけました。実は、これが後で問題となりました。

 出力管のEL34の動作条件は、Ep=315V, Ip=60mA, Eg=-23Vに設定しました。これでなんとか3W以上の出力が確保できるはずです。またドライバー段となる2段目は、15KΩというかなり小さめの負荷抵抗で5mA以上のIpを流しました。これは、回路インピーダンスを下げることと出力段との歪みの打ち消しを狙ってのことです。



 完成したアンプの特性は、最大出力が3.1W (厳しめの測定なので実質は3.5W)、この時の入力電圧が0.59Vとほぼ当初の予定通りとなりました。今回からループNFBは、ローターリースイッチで4段階に切り替えるようにしました。これは測定や調整の時だけではなく、実際に音楽を聴く時に重宝します。

 前段部の局所NFBは6.0dbとしましたが、これがくせ者でした。このNFBの帰還抵抗は、2段目の負荷抵抗と交流的に並列になるため、小さな抵抗値を使うことが出来ません。その結果、受け手側の分圧抵抗も必然的に大きくなってしまいます。今回はやむを得ず、この分圧抵抗を初段のカソード抵抗で流用しました。しかしそのためにはカソードのバイパスコンデンサーを外す必要があり、結果として、初段にはP-K帰還に加え電流帰還まで掛かってしまいます。この電流帰還は、残留リップルを増幅させたり真空管の内部抵抗を押し上げて高域劣化やノイズの影響を受けやすくしたりとあまり良いことがありません。電源回路にはチョークが2つ入っていますが、それもこの電流帰還の悪影響に対処するための苦肉の措置です。ここまでやって残留ノイズはようやく0.6mVと実用レベルとなりました。

 周波数特性はまずまずで、春日のOPTの性能がそのまま出ているように思います。歪率は出力と共にほぼ直線的に増加し、当初のもくろみ通り2次高調波が主成分であることが解ります。また特に低歪という訳ではありませんが、出力1.5W以下では1%以下なので、まずまずの値だと思います。



 試聴の第一印象は、非常に元気の良いアンプです。気の強いじゃじゃ馬ねえちゃんのような音と言うか、艶のある中音域が積極的に張り出してくる音です。しかし低域と高域が引っ込んでいる訳ではなく、適度なバランスでやはり前に出てきます。全体的に迫力があって食いついてくるような音です。

 実はこのアンプ、知り合いにタダで進呈してしまいました。自分はピアノ曲や弦楽曲等のクラシックの室内楽が好みなので、このアンプはちょっと元気が良すぎます。静かで品の良いバロック音楽が、まるで盆踊りのように華やかな曲になってしまいます。しかし、ポピュラーやボーカルにはうってつけのアンプで、知り合いの家族からの評価も上々でした。また自分では、このアンプのデザインも気にいっています。コンパクトかつキュートなデザインで、作り手のセンスの良さが感じられる(全くの自画自賛です)。



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