真空管試験機 



 これまで製作した真空管アンプも数年が経ち、そろそろ幾つかの真空管が怪しくなってきました。またロシアから直輸入したNOS球やヤフオクでコツコツ集めた中古球等もすでに100本以上のストックがあり、これらの動作確認をきちんと取りたいという思いもありました。そんな訳で、以前からずっと真空管試験機がほしいとは思っていました。それでいろいろ調べてみると、僅かながら今でも販売されている製品もあるようです。しかしそのほとんどは真空管全盛期に活躍した中古品のようで、相場的にはエミッション測定型で2-3万円、Gm測定型で10万円弱程度、見た目ははっきり言ってボロボロでした。そこでそんなものにお金を出す位なら、自分で作ろうと思いたちました。実は数年前からこんなことを考えてはいたのですが、おそらくは幾つもの電源回路とただただ面倒臭い配線作業になるだろうということで、全く重い腰が上がりませんでした。



必要とする機能

 中古品も含めて市販されている廉価版の真空管試験機は、ほとんどがエミッション測定型です。これは三極管も多極管も全ての真空管を二極管接続にして、低いプレート電圧(Ep)でプレート電流(Ip)を測定するものです。測定の仕方も非常に大雑把で、基準値以上のIpをgood、それ以外をbadと判定するだけです。まあこれでも真空管の大体の良否を確かめることはできますが、定量的な動作特性は全くわかりません。一方高級品では、相互コンダクタンス(Gm)等が直接測定できるようになっています。このような機能があると、例えばPP等に必要な真空管のペアマッチングを調べることも可能です。

 PP出力段等でペアマッチング指定の真空管を購入すると、多くの場合このGmの値でマッチングが取られています。Gmがそろっていると、PP動作で良好なACバランスが期待できます。ですが実際に測定してみるとわかるのですが、仮に同じGm値でもIpがそろっていないことが多々あります。そうすると今度はDCバランスの方が取れなくなってしまいます。出力トランスのアンバランス電流の許容範囲を考えると、こちらの方が遥かに問題です。またPP以外でも、例えば直結回路1段目の動作条件の僅かな違いは、2段目のEpやIpに大きな影響を与えてしまいます。なので私としては、Gmの値そのものよりは、いろいろなEpとEgにおけるIpが自由に測定できることが一番重要だと考えています。またこのような測定ができれば、任意の動作起点でのGm、増幅率、内部抵抗を有限差分の近似値で見積もることもできます。

 市販の真空管試験機では、二極管から五極管まで、原則として全ての真空管が扱えるようになっています。しかし私の好みは三極管(接続)で、前段部も含めてこれ以外は一切使っていません。少なくともオーディオに関する限り、これからも五極管やビーム管をそのまま使うつもりは全くありません。なので私としては、いろいろな三極管(接続)が測定できればそれで充分です。



真空管のバリエーション

 市販の真空管試験機では、幾つもロータリースイッチを使って、いろいろなピン配列やヒーター(フィラメント)電圧に対応しています。しかし今の時代、市販されているロータリースイッチは250V耐圧が精々で、B電圧のような高電圧を切り替えることができるものはほとんど見つかりません。また私は非常にそそっかしいので、幾つものロータリースイッチを正しく設定する自信もありません。設定ミスで高価なビンテージ管を壊してしまっては、泣くに泣けません。そこで真空管ソケットを沢山準備しておいて、最初からいろいろなピン配列に対応させておくことにしました。ということで自分で所有している或は将来使いそうな真空管を、下の表のようにピン配列とヒーター(フィラメント)電圧毎に整理してみました。そしてこれ以外のピン配列の場合には、GT管のUSソケットに差し込むUSプラグを使って外部アダプターを作り、これで対応することにしました(予定)。



  1  MT双極管(1)  12AX7,12AU7,12BH7,12AT7,12AY7,etc.
  2  MT双極管(2)  6DJ8, 6922,6N1P,6FQ7,6N6P
  3  MT双極管(3)  5670,6N3P,WE396A
  4  MT双極管(4)  5687
  5  MT出力管  6BQ5,6CW5
  6  MT複合管(1)  6BM8
  7  MT複合管(2)  PCL86
  8  GT双極管  6SL7, 6SN7,6BX7,6EM7,etc.
  9  GT出力管(1)  6V6,6L6,EL34, KT66, KT88,etc.
 10  GT出力管(2)  1626,VT137
 11 UX出力管(1)  2A3
 12 UX出力管(2)  300B
 13 UX出力管(3)  VT25,VT62
   


回路構成と部品

 測定する真空管の種類が決まったところで、おおよその構成が決まってきます。まずヒーターとフィラメントのA電源については、2.5V, 5V, 6.3V, 7.5V, 12.6V, 14.5Vが必要となります。これについては、汎用のヒータートランスで対応しました(12.6Vは12.0V、14.5Vは14.0Vで代用)。プレートに印加するB電源については、420V強の電圧と最大90mA程度の電流を連続可変で印加できるように設計しました。これにはまずA.C.100Vに小型ボルトスライダーを通し電圧を可変とし、その出力を100V:320Vの電源トランスで昇圧しました。また双極管の両極部を同時に測定できるように、B電源は2系統に分岐しました。グリッドバイアスとなるC電源については、-110V~0Vを連続可変で与えられるようにしました。また電圧増幅管ではグリッドバイアスが浅くなります。そこで調整が行いやすいように-11V~0Vと-110V~0Vの2系統の負電源を準備し、C電源としてトグルスイッチで切り替えるようにしました。複合管については、プリ部とパワー部をトグルスイッチで切り替えながら測定するようにしました。





メータ類の実装

 測定用のメータには、4個のディジタルメータと1個のアナログメータを用いました。ディジタルメータの内訳は、Ep測定用の電圧計が1個、2系統のIp測定用の電流計が2個、グリッドバイアス測定用の電圧計が1個です。また不良球やNOS球では、グリッド電流が結構流れることがあります。そこでグリッド電流のチェック用に、高感度なアナログ電流計を装備しました。

 ディジタルメータには、専用電源が必要となります。今回はPM-128Eを使いましたが、このメータは電源系と信号系が絶縁されていません。従って不用意にメータの電源を共通にするとショートしてしまいます。また電源電圧が安定していないと測定値が少しバラつくようです。仕方がないので、絶縁型のDC-DCコンバーターを使ってメータ毎に5Vの独立した安定化電源を作りました。



回路図

下の図は、全回路図です。まあこれはあくまでも後のメインテナンスのために作成したものなので、回路図自体は見て頂いてどうという程のものではありません。













最後に

 真空管試験機の制作は、真空管アンプと違ってただただ面倒臭く、決して興味がそそるようなものではありませんでした。実際、作り始めてからも気が乗らず、結局完成までに3ヶ月以上掛かってしまいました。しかし出来上がった試験機は、結果的に非常に役に立つツールとなりました。この制作に掛かかった費用は総額で3万円強でしたが、少なくとも同等の金額の市販品よりは機能的にも使い勝手も遥かに良いものとなりました。自分では、最近の製作品の中で一番価値があると思っています。最後に、測定時のスナップショットを幾つか紹介しておきます。




 6SN7の測定  12AU7の測定
  


 300Bの測定  ソケットセーバーを装着
  




おい、それはないだろ!

 下の写真は、某ショップから購入した2A3Cです。ショップ名は敢えて明かしません。この2A3Cは1年程前に新品で購入し、購入直後にチェックを兼ねて10分間程試聴しただけの未使用品です。添付されていた特性表には、Ep=250V, Eg=-45V, Ip=50mAと記載されていました。しかし今回、改めて測定してみてびっくりしました。Ep=250V, Eg=-45Vで、Ipは38mAしかありません。更に標準的な動作条件であるEp=250V, Ip=60mAを与えるためには、Eg=-40.5Vまでバイアスを浅くする必要がありました。もう1本の2A3もほぼ同じような状態で、数時間エージングを試みてもエミッションは全く改善されませんでした。これは明かにエミッション不良の球で、添付されていた特性表の値も捏造による水増しです。確かにこの2A3C、相場よりもかなり安かったのですが、それでも購入価格は1万円以上でした。こんな状態でも一応音は出るのですが、試聴した時の印象では2A3らしからぬ乾いた感じの音でした。この印象も、今考えてみるとIpが少なすぎたんだと合点がいきます。

 この件、某ショップが悪いのか、それとも輸入代理店や生産工場が悪いのか、私には判断が出来ません。ですが、これからは購入した真空管は必ずチェックしなければならないと思っています。




購入した2A3C



 特性表通りの測定 (Ep=250V, Eg=-45V)    Ip=60mAとなる時の条件
  



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